予防的な外鼻孔拡張手術

だんだんと暑くなってきました。熱中症に十分気をつけて下さい。

今回はその熱中症の予防にも繋がるお話です。

 

テーマは「短頭種気道症候群の予防のための外鼻孔拡張手術」

 

まずはじめに、、

 

「短頭種」とは?

パグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリア等の、いわゆる「鼻ぺちゃ」の犬種です。チワワやキャバリアも含まれる場合もあります。

 

「短頭種気道症候群」とは?

●原因と病態

短頭種は生まれもって上部気道(鼻〜喉〜気管)の構造が狭く、呼吸がしづらいという事に起因します。

気道がせまく呼吸しづらいので、筋肉を目一杯使って呼吸します。

→ 狭い気道に無理矢理空気を通すようになるので、気道内の粘膜、軟骨にダメージが及びます。

→ 長期間続くと、気道内の粘膜が炎症や浮腫を起こし、軟骨がヘロヘロになり、更に気道内が狭くなります。

→ その結果、様々な症状を引き起こします。

●症状

過剰な呼吸音、呼吸困難、高体温、チアノーゼ、失神など。

 

末期になると、呼吸する筋肉も疲弊してしまい、寝ると呼吸できなくなってしまう「睡眠時無呼吸症候群」のような状況にもなります。

 

この「短頭種気道症候群」の厄介なところは、病態が進んでくると「不可逆的」になってしまうという事です。つまり、ある程度進行してしまうと、手術等を行っても改善出来なくなってしまいます。

 

そのため、「短頭種気道症候群」が起きないように、早めに対処する(予防する)ということが大切です。

 

その予防の一つとして「外鼻孔拡張手術」があります。

これは簡単に言うと、「鼻の穴を広げる手術」です。

この手術を若いうちにやってあげる事によって、後々「短頭種気道症候群」になるリスクを減らすことができます。

 

 

では、熱中症との関係ですが、、

ワンちゃんは呼吸によって体温調節を行っているので、そもそも呼吸がしづらい短頭種は体温調節が上手く出来ません

「短頭種気道症候群」になっていなくても、短頭種」というだけで熱中症のリスクはとても高いのです。

 

そのため、熱中症の予防として「外鼻孔拡張手術」を行うことは、非常に有用だと考えています。

日本にいる限り、熱中症のリスクは毎年訪れますので。

 


今回の症例は、6ヶ月齢のボストンテリア。去勢手術の時に外鼻孔拡張手術を行いました。

手術前
手術後

手術前は「穴」というより「線」だったものが、術後はしっかり「穴」になってます。

 

こんなもので効果はあるのか?と思う方もいると思いますが、、

こんな微々たる変化でも、大きな意味があるんです!

 

その理由は、流体力学の「ポアズイユの法則」にあります。

「気道抵抗は気道の長さと気体の流速に比例し、気道半径の4乗に反比例する」というものです。

難しい話ですが、重要なのは後半部分です。

簡単に言うと、気道の広さが2倍になれば、気道抵抗は1/16になる。

もっと簡単に言うと、鼻の穴が2倍に広がれば、1/16の力で呼吸ができるということです。

そのため、ちょっと広げてあげるだけで、かなり楽に呼吸が出来るようになり、粘膜や軟骨にかかる負担を軽減出来ます。

 

 

手術のタイミングとして、避妊、去勢手術の時に一緒にやることをオススメしてます。

もちろん、既に避妊、去勢手術が済んでしまったワンちゃんでも、いつでも行えます。